なんとなくBBC iPlayerで見始めたらとても面白かった。
押しも押されぬ堂々たる婦人、スーザンはロンドンの小さな出版社の辣腕編集者。自分の担当で、会社の看板である世界的ベストセラー作家、アラン・コンウェイがようやく新刊を書き上げたとの知らせを、出張先のフランクフルトで受ける。
今回のミステリー「Mugpie Murders」はシリーズ物で、戦後のイギリスが舞台、ドイツ人の私立探偵とちょっと足りないアシスタントが主人公。
フランクフルトブックフェアから急いで戻り、社長からゲラをもらって読み始めたところ、なんと私立探偵は不治の病に。これが最終作になる? しかも最終章が欠落。
翌日スーザンは、作家が死んだと社長から聞かされる。豪邸の屋上からの転落死。しかも本人もガンで治療不可能であったため、自殺・・?
おりしも会社は、投資会社からのバイアウトの提案を受け、社長は引退しスーザンに跡を継いでもらいたがっている。編集は得意でも経営は自分にできる? なにより、今回の本が出版できなければ会社の価値が下がってしまう。
しかも年下の恋人アンドレアスは、行く末の見えない仕事にけりをつけ、故郷のクレタ島でホテルを買ったので、スーザンに一緒に行ってほしいという。
調べるうち、どうやら作家は自殺ではないよう。このMugpie Murdersの物語の犯人は誰?最終章のゆくえは、そしてスーザンの仕事と恋は?
という込み合った内容で、虚構のミステリーとスーザンの現実の謎解きが同時進行、私立探偵がスーザンの夢に出てきてヒントをくれる。それが不自然じゃないのはスーザンが編集者で、実際に本を読みながら考えているていになっているのと、さらに、この作家がなかなか癖のある嫌な奴で、自分の周りの人たちがほぼ全員気に入らず、嫌な面を誇張して自分の作品に登場させるという設定で、ドラマでは、主要登場人物以外は、一人2役で現実と、小説の中に出てくるのである。
これを実にテンポよく、なかなか含みのあるやりとりで、それぞれの関係性などをうまく出していて、しゃれていて、ブラックで、笑える。
現実の犯人は注意深く見ていれば割とすぐにわかるし、最後の展開は、まあお約束というか、こうしないと謎解きの説明ができないのでこうなるよね・・ではあるのですが、Mugpie Murdersそのものの最後で、スーザンが私立探偵に別れを告げるところは、なかなかよかった。
この作家のアラン・コンウェイはなぜ、世界的ベストセラーのミステリーシリーズを書くのをやめたかったのか? が事件のカギになります。
自分がもう生きられなくなったから、というのもありますが、それ以前から彼はこのシリーズをやめてしまいたかった。それはなぜなのか・・。
なにより、このスーザンが良い。婦人かくあるべし。どんな時も、文句を言うより先に自分で行動して自分で決める。車の運転も自分がする。ずっと仕事してればいいことばかりではない。私生活もそう。でもなんとかして前に進むしかないし、タフになる必要もある。足元からすくわれるような経験もして、賢くもなる。
それをスーザン役のレスリー・マンヴィルがいい感じで演じていて素敵でした。
なんと、撮影時60歳超えです。ヒールのあるブーツはいて、赤いコンバーチブルを運転して、颯爽としてかっこいいのなんのって。
しかも本人も、役者としてのキャリアは長く、名わき役として賞をとったことはあれど、主演はこれが初めてで、それもいいじゃありませんか。
レスリー・マンヴィルはこのあと「ミセス・ハリス、パリへ行く」のミセス・ハリスを演じています。これも機会があったら観ようと思います。
ちなみにドラマ版と原作とでは結末が違っている模様。