Tortoise Bar

英国園芸&珈琲日記

Rewilding-Knepp Estate Walled Garden

大変な冷え込みの週末。

酷暑の後この冷え込みときては、植物にもダメージが大きい。うちの庭でも、ダメになってしまうものも出てきそうだが、静かに見守るしかない。

 

それでもだんだん冬が好きになってきている。

冬のクリーンさ、葉や花でおおわれていた植物たちが骨格をあらわす。冬ならではの淡い光、冷たい空気の中に漂う花の香り、など、この季節にしかない美しさがある。

 

ガーデナーとしては、冬の作業がその後の結果を左右することもあり、非常に重要な時期。地味だけど仕事に専念するときでもある。今週後半からはまた気温がゆるやかになるようなので、剪定や誘引などを少しずつやるつもり。

 

現在、BBCガーデナーズワールドではウィンタースペシャルとして、1年の振りかえり&冬の庭を中心にしたコンテンツを放送している。

 

それで大変な衝撃を受けたのがこれ、Knepp

www.kneppestate.co.uk

Kneppは3,500エーカーの広大な土地で、220年の歴史を持つ。ジョン・ナッシュが設計した湖を見下ろす邸宅は今もオーナーが暮らしている。領地は農地として使われてきたが、その歴史が途絶え、20年前ほどまでは荒れ地になっていた。

 

それを現在のオーナーがRewildingをテーマに手を入れ、一部は公開されていて野生動物を見学したり、キャンプなどの宿泊も可能になっている。

 

Rewildingとは、環境を自然の状態に戻すということで、19世紀の末~20世紀にかけて、イギリスの環境保護家や作家などが提唱した考え方。

 

21世紀になり、行き過ぎた肥料や農薬の使用の問題、また温暖化の影響などを受けて農業・園芸はどうあるべきか、となったときのひとつの回答として少しずつ広まってきているようだ。

 

人間からの介入は最小限の管理にとどめ、できるだけ多様な生物が住める環境に変えていく。例えば草刈りは半野生の豚や牛にやってもらう。環境にあった植物が生き残るよう、その場所に合う注意深い植生づくりを行う・・といったことになる。

 

Kneppの荒れ地はそのようにして20年、豊かな土地に戻ってきているのだが、エステートの中にあるお庭はいわゆるレンガの壁の中に芝生にお花のヴィクトリアンガーデンのままだった。

 

そこで、この庭園もRewildにした・・というのが今回の内容なのです。

私は何も知らず、いきなり庭の映像を見て美しさに圧倒された。

 

自然と人工の境界がほとんどわからない。しかしこれは人間の手が入らなければ決して実現できない景色でもある。ナチュラルガーデンでもなく、人工を極めたものでもなく・・ そして本物はきっと映像の何倍も美しいのだと思う・・ ああ・・ 

 

「庭園」であっても水やりや肥料はやらない。もちろん芝生なんてない。

慎重に品種を選んで、こぼれ種で増えていくようにする。うまくいかないもの、ふえすぎるものも基本的には自然に任せ、干渉は最低限。

 

農地では野生動物に草を食んでもらうということをしていたが、庭園ではその役割は「ヒト」であり、通路を歩いたり、花をつんだりすることで最小限の「干渉」を行うことになるという。

 

荒れ地・低栄養で育つように、土には地所から出たコンクリートやレンガなどの破片を埋め込んでいる。このオリーブの木の根元もそのようにして作りこみ、周りにグラスを丁寧に植えている。なんと美しい・・

女性はBBCガーデナーズワールドのプレゼンター、アリット・アンダーソン。

 

この男性がヘッドガーデナーのチャーリー・ハーパー。

設計はトム・スチュワート=スミス。植生についてはハーブの大家のジェッカ・マクヴィガーをはじめ、プランツエコロジストなど専門家の協力のもと選ばれたとのこと。

 

下記でトム本人による説明と、オリジナルのエッチングからどのようにデザインしていったかの写真を見ることができます。

 

Tom Stuart-Smith

 

ヘッドガーデナーのチャーリーは、建築を勉強したが性に合わず、もともと家族がガーデンフォトグラファーだったりしたこともあり園芸への興味を生かして、トムの事務所でのプロジェクトを手伝った後、そのままKneppのヘッドガーデナーとなった。トレイルランナーでもあるそうだ。

 

この水の配置、手を加えない通路・・子供のころ遊んだ空き地が美しくなって現れたような・・

21世紀の英国庭園はここまで行っているのだな・・畏怖の気持ちさえ抱いた。

 

残念ながらこの庭園は現在非公開です。オリジナルの庭園が1.5エーカー、果樹園が1エーカーと、庭園としては「小規模」なほうです。2023年4月にオーナーによるこの庭園についての本がブルームズベリーより刊行予定。それもあってパブリシティをたくさんやっているようで、1月号のHouse & Gardenでも取り上げていました。

 

誌面上の写真で見ると、もう少し良さがわかるかも。

写真が1枚下のほうにあります。

www.houseandgarden.co.uk

ちなみにGardens IllustratedよりもHouse & Gardenのほうが面白くなってきているので、購読することにしました。ガーデニング分野で有名な編集者のクレア・フォスターが House & Gardenに移ってから、庭園回りの内容が大変充実。イギリスの庭園の最先端を知りたいならこっちのほうがいいかも。

 

こういう荒れ地・乾燥地帯に生きる植物の美しさには本当に心惹かれるものがある。それをこれほど大胆に庭園に取り入れるとは、前衛というか、退廃というか、ナチュラルガーデンといった安っぽいものでもなく、言葉が見つからない。いつか機会があったらこのKneppの庭園、観てみたい。