君知るや南の国
レモンの木は花咲き くらき林の中に
こがね色したる柑子は枝もたわわに実り
青き晴れたる空より しづやかに風吹き
ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く
雲にそびえて立てる国や 彼方へ
君とともに ゆかまし
これは森鴎外の訳。原詩はドイツ語。
ミルテとはマートル。英国でも通りの名前になっていたりとか有名な木。
ラウレル=ローレル。月桂樹と訳せばよかったのに・・。
レモンにオレンジ、マートルにローレル・・色鮮やかな、香り高い植物が青い空に輝く、イタリア。
北の国の寒くて暗い冬に、このような土地にどれだけ憧れることだろう。
時が静止したような戦争の絵。オレンジと深緑の葉の対照が絵のアクセントになっている。
www.nationalgallery.org.uk今気づいたが、白いボールのような花はたぶんバラ。がくの部分が描き込まれている。
スーパーの配送でレモンを買ったつもりがどういうわけかベルガモットが届いた。
ふと思いついて皮を切ってお茶に入れてみた。
気を失いそうになるほどの香り。
実のほうは、少し切ってはちみつをかけたヨーグルトに入れてみたら幸せすぎた。
ベルガモットの香りといえばアールグレイの紅茶。我が家にもある。
しかしフレッシュなベルガモットときたら・・君よ知るや南の国、と口ずさみたくなる。
レモンにはない甘さ。
実はクリスマスプレゼントにレモンの木を予定していた。
21世紀のイギリス、年々夏は暑く、冬も気温が下がりにくくなりつつあって、冬場は温室でしか栽培できなかったレモンの木もこの頃は外に出したままの家もあるようになった。レモンは品種によってはほぼ一年中実がなりつづけるようで、うちの近所のレモンの木も年中黄色い実がついている。
オランジェリー、というのはガラスの大型温室を指す言葉で、昔貴族がオレンジやレモンの木を温室で育てて楽しんでいたところから来る。キューガーデンにもオランジェリーという、今はレストランになっているガラス張りのお部屋がある。北の国ではお金持ちの贅沢品だったのだ。
実はともかく、柑橘系植物の花のあの香りが家にあったらどんなに幸せだろう、と思って、夫に聞いてみたらあっさり許可された。花を買うというといい顔をしないが、果物や野菜など実用になればいいらしい。
それでレモンの品種を決めてほとんど注文する寸前だったのだが・・ベルガモットに変えました。
柑橘系の木は肥料も土も専用のものが必要。あと、虫との戦いがあるかも・・日本だとオレンジやレモンはアゲハの幼虫の大好物。ロンドンでは見かけないけれど、別の虫がくる。しかし実を利用するので基本的に農薬は使えない。そして日光。我が家では自動的にフロントガーデンに行ってもらうことになる。
とまあいろいろ大変そう。でも、この香りが家にあるならいいな。幸せになれる。
今もお茶を飲みながら書いているのだけど、本当に、冬を忘れる。クリスマスから新年に行ったシチリアを思い出す。マーケットで買ったブラッドオレンジが素晴らしくおいしかった。
お茶のほか、アイスクリームやお菓子などにも使える。お酒を飲む人ならカクテルや、梅酒の要領でお酒を作ることもできるだろう。
オレンジやレモンの実生は相当大変らしい。ただ挿し木はできるようなので、育てて安定してきたらやってみようかな。
・・などと逃避している場合じゃなかったよ~涙 年末の足音がひたひたと聞こえてくる。まぬ犬を抱いて南の国に逃亡したい。